世の中褒めロボ

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佐久間勉大尉と第六潜水艇事故を現代でどう考えるか

どうも、地形適応水Aです。

 

 今回は少し真面目な話。

 

 切っ掛けといいますか、約1年前アルゼンチン海軍が保有する潜水艦が航行中消息不明に。それが先日水深800mの海底で発見されたニュースを見かけました。

 乗組員44名の生存は酸素不足により絶望的とのこと。海底で逃げ場もなく酸欠で死ぬというのは大変恐ろしかっただろうと思います。安らかに逝かれたことを心より祈ります。

 

 その件を見て、奇しくも丁度1年程前にネットを徘徊していて初めて知った大昔の日本の潜水艦事故を思い出しました。

 もう100年以上も前の第六潜水艇沈没事故と、その艦長であった佐久間勉大尉について考えてみたいと思います。

 よく、でもないけど「日本の素晴らしい精神」的な話でたまに取り上げられる事件なのですが、この記事は過度に礼賛するものではなく、とりあえずの事実と今の時代から見てどうなのか、などを。

 

 

第六潜水艇沈没事故

 

どのような事故であったのか

 詳しくはWikipediaで。と言ってしまうと身も蓋もないのですが、今より100年以上の前、1910年4月15日のことです。

 佐久間勉大尉が艦長を務める第六潜水艇は訓練中の事故で沈没、着底してしまいます。

 艦内では排水し再浮上などが試みられますが成功せず。艦長含む乗組員14名全員が呼吸困難により亡くなりました。このあとで大事な要素になるのですが、即死ではありません。事故発生からしばらくは全員意識がはっきりしておりました。

 

佐久間勉大尉の遺書と乗員の精神

 この事故が起こる少し前に海外の潜水艦で似たような事故があり、それが引き上げられた時の内部の様子が、乗員は錯乱しハッチに殺到。殴り合いまでして脱出を争い、ハッチ下に折り重なるように死んでいた。という悲惨なものでした。

 第六潜水艇もそのような状態なのではないか、と海軍は恐る恐る事故のあった潜水艇を引き上げてみると、乗員全14名のうち12名は持ち場についたまま、残り2名は破損したガソリンパイプの修理中に亡くなっていたことがわかりました。

 

 また艦長の佐久間勉大尉は公的な遺書をしたためており(個人的な遺書は常に自室に置いていた)、このようなことが書かれてありました。

 事故の責任は自分にあること、艦を沈め部下を死なせることへの謝罪、事故原因の分析と経過の記録、どうかこの事故のせいで潜水艦運用に臆病にならないように、部下の遺族が窮することないように頼む。

 といった内容でした。全文は検索すると見ることが出来るので、興味ある方は 

第六潜水艇 - Wikipedia こちらででも。

 

この事故の評価

 最後まで惑うことなく職務を全うしようとした乗組員の精神と、各方面への気遣いが行き届いた佐久間大尉の遺書は大変高く評価されました。

 国内でもマスコミが大きく取り上げ修身の教科書に載るようなことにもなったのですが、それ以上に僕が驚いたのはイギリスとアメリカが非常に高く評価していたことです。

 

 当時のアメリカ大統領ルーズベルトはこの遺書に感動し、国立図書館に遺書を刻んだ銅板を設置し、イギリス海軍では潜水艦乗りへ教訓としてこの精神論を説かれていたり、王室海軍潜水資料館に事故と佐久間大尉の説明が展示されるなどしていました。

 日本とこれらの国は後に戦争に突入するのですが、驚くことにその際も後もこれらが撤去されることは無かったらしいです。

 

 この後日本は太平洋戦争で世界でも類を見ない潜水艦の造船技術と卓越した運用能力で戦い、大きな戦果を上げると共にその技術は今の日本にも残っています。詳しく知りませんが自衛隊の潜水艦優秀らしいですよ。

 「事故に臆し潜水艦の未来を閉ざさぬように」と書かれた遺書の影響は大きかったのかもしれません。

 

 ただ実は日本海軍の事故分析ではとても冷静に受け止められており、
 事故原因において佐久間艦長の責任は大きいこと、大尉の遺書は冷静で感心するものであることは誰もが認めるが、事故の際には遺書を作る余裕があるなら最後まで諦めず脱出のため努力することが肝要*1
 つまり影響されてまだ助かる見込みがあるのにヒロイズムに酔い真似しないように。

 などと報告が上がっていたようです。大日本帝国っていうと精神論でド根性なイメージですが、結構冷静で意外ですね。

 

現代の感覚ではどう捉えるか

 自分はこういう話を見た時に持つ感想がちょっと人とはずれている自覚があるのでわからないのですが、この事故の経緯は現代人はどのように考えるのでしょうか。

 

 もし自分がこのような状況に置かれたら。艦長じゃなくて乗員の立場ですかね、どうすると思いますか?

 

 ハッチに殺到して殴り合ってまで脱出を競うのが美しい、と思う人は少ないと思います。だってそこ開かないし。現代日本人は理知的なので、無駄な行動には理解を示さない。

 じゃあ海水引き入れて水圧揃えてハッチ開ければ~とか、もしこうすれば系は僕も含め考えがちですが、まぁあんまり意味はないです。前提が変わってきちゃうので。

 いかにも大日本帝国的な、根性論的なものを嫌う人は増えている気がしますが、今でも自分が乗員の立場なら同じように大人しく最後まで職務を全うしつつ死んでいく人が多いのではないでしょうか。

 混乱しつつ喚いてでも最後まで諦めない方が人間らしい。という考え方も一理ありますが、それで事態が好転する予感があんまりしないんですよね。

 

 今同じ事故が起きたら佐久間艦長は5chとSNSでボロクソに叩かれるでしょう。現代人は精神や経緯より責任の所在を追求するのが好きなようなので。何かが起こると「誰が悪いのか」を追い込みます。

 この傾向を特に非難はしません。原因究明には大切なことですし、必要ですが、問題の本質からずれていく懸念もあるかなー良し悪しかなーくらいな個人的感想です。

 

まとめ

 まとめも何も無いんですが、この事件を知らない方も多いと思います。今の人ってこれどう思うんだろう?ってのが気になるところでした。いや自分も今の人なんですけれど。

 どう思うか、というより同じ状況に置かれたら自分ならどうするか、が気になるとこかな。昔の日本人や英国、米国人と同じように亡くなった14名の姿は高潔であると感じるかどうか。同じようにありたいと思うかどうか。

 

 ちなみに僕は結構根性論賛成派です。なんか面白いので。

 みんな画一的に同じ価値観共有した国家民族ばかりになるより、それぞれ違う変な奴らがいる世界の方が面白いんじゃないですかね。

 あ、この事件がそこまで根性論的な話とも思わないのですが、なんとなく。

 

 では終わりです。またね。

*1:佐久間艦長以下乗員は艦の修理復旧には当然全力で当たっていました。